利上げ期待は後退しにくい
4月からの米金利低下とともにドル安・円高が進み、5月上旬には一時80円を割れたドル/円相場だが、その後も米金利低下や株安・商品安などのリスク回避行動が続いたにもかかわらず、80円台をほぼキープしている。
これには主に2つの理由があるだろう。1つは、リスク回避のなかでのドルの買い戻しである。5月初めまでは、株価や原油価格が上昇するなどリスク選好のなか、ドルを売って高金利通貨やユーロなどを買う動きにあったが、5月以降はその動きが逆転した。世界各国の景気指標が鈍化したことを受けて、株価や原油価格が反落し、新興・資源国通貨が売られたほか、ギリシャ債務問題の拡大もありユーロが売られた。通貨先物市場での売り持ちが過去最大レベルに達するなど売り込まれていたドルが一転して買い戻されたことが、米金利低下やリスク回避の円買いがあってもドル安・円高が進まなくなった理由である。
そして、もう1つの理由は、米国の名目金利が低下しても実質金利が低下しなくなったことである。景気減速懸念による株安や商品安などを背景に米国のインフレ期待が後退し、5年物の国債利回りとインフレ連動国債利回りの格差でみたブレーク・イーブン・インフレ率は2.44% (5月2日)から1.78%(6月27日)へと低下したが、同期間にインフレ連動国債利回りでみた実質金利は▲0.48%から▲0.33%へと小幅上昇している。
物価の上昇(下落)は通貨価値の低下(上昇)を意味するので、インフレ期待の上昇による金利上昇は通貨高に結びつきにくい。名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利の動きが通貨の動きに直結しやすいと言える。米
国の実質金利はすでに非常に低い水準にあり、低下しにくい状態にあるが、これはすでに小さくなった利上げ期待がこれ以上は小さくなりにくいことを意味している。
事実、今後12ヵ月間の翌日物金利の予想平均を反映するドルOIS(オーバーナイトインデックススワップ)金利は0.16%台にまで低下した後、下がらなくなっている。これは現在0.1%程度で推移するFF金利(翌日物金利)が今後1年間にわたり、わずかしか上昇しないと市場が予想しており、利上げ期待がこれ以上は後退しにくい状態にあることを示している。
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ドル買い圧力が高まる
さて、今後については、米国などの経済指標の悪化が収まり、市場はリスク選好へと戻っていく可能性が高い。世界的な景気減速の原因となった日本からの供給制約とエネルギー高がいずれも緩和しているからだ。3、4月と減少した日本の実質輸出は5月に増加に転じ、日本からの供給制約による海外生産へのマイナス効果は薄れ始めている。また、原油価格の下落率に比べると小さいものの、米国のガソリン価格も反落し、エネルギー高が需要に及ぼすマイナス効果も薄れつつある。7月以降に発表される経済指標が改善し始めて景気減速懸念が後退するにしたがい、リスク回避のドル買いや円買いから、リスク選好のドル売りや円売りへと変化すると予想される。ただし、同時に米金利が上昇することでドル買い圧力が拡大し始めることになるだろう。
6月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、2011年と12年の成長率予想が下方修正されたが、インフレ率予想は上方修正された。米連邦準備理事会(FRB)当局者の12年インフレ率予想は1.2〜2.8%であり、その中心値はFRBが望ましいと考える2%弱の水準を若干超えている。景気回復ベースの鈍化が一時的で、再び加速するようになれば、FRBはインフレ抑制に向けて夕力派的姿勢に傾き、9月か11月には金融引き締めへの準備としてFOMC声明を修正することも十分に考えられる。
一方、欧州ではギリシヤ債務問題の影響で利上げ期待の高まりにくい状況が当分続くだろうから、相対的に米国の金利が上昇しやすく、それがドル買いに作用するだろう。リスク選好の円売り、金利上昇のドル買い、リスク選好のユーロ買いとソブリンリスクのユ― ロ売りを鑑みると、強い順にドル、ユーロ、円となるだろう。9月末は、1ドル=82-88円、1ユーロ=1.34-1.42ドル=113-121円、と予想する。
外国為替市場(FX)のNY時間では、米新規失業保険申請数の発表を受けて、ユーロなどの主要通貨がやや値を戻す動きとなったものの、その後に発表された注目のISM製造業景況感指数が事前予想ほど悪化していない数字となったために、ドル買い戻しの意識が強まり一旦軟化していたドル円は再び77円台を示現する上昇を演じた。この流れで、ユーロやポンドが下落する動きになると、各クロス円通貨も値を下げる動向を演じたが、月初のロンドンフィクシングに向けてのポジション調整でドル円が反落すると、逆に主要通貨は上昇する動きを強めるなど波乱の値動きとなった。その後は、米国株式市場が軟調に推移する動きを続けたために、各通貨とも頭の重たい値動きとなり、徐々に動意を失いながら夕方を迎えている。